奥様に会ってきた

先日、先代の奥様と会っていろいろ話をしてきた。
「後継者問題」について、先代はどうしていたのか知りたかった。

意外な事実が分かった・・・

先代も、元々この土地の人達ではなく請われて他所から来た人達だった。
(田舎ならでは、というかこの土地の生まれかどうかはとても大きな問題)
先代が奥様とまだ幼い子ども達をつれてこのお寺に来て間もない頃
檀家の中で一番影響力のある人が、
お寺の安定的な運営のため、住職は息子にこの寺をちゃんと引き継がせるつもりがあるのか、ということを
何故か、他の住職を通して聞き出そうとした。
檀家さん相手だと、本当のことを言わないと思ったのだろう。
住職同士の雑談のときにでも聞いてくれと頼んだらしい。

何気ない雑談の中で聞かれた先代は、
まだ5歳の息子の先のことなんて分からないので「継がないかもしれないな」と
軽く答えた。それが「有力者」に伝わり、
「住職は息子に後を継がせる気がない!」ということになって
お寺・住職に対してあまり協力的ではなくなった。
そして一部の檀家も同調して冷遇されるようになった。

私はてっきり、将来の進路を迫られた「年頃」の息子が
「お寺を継ぎません」宣言した、というよくあるパターンを想像していて
父親である住職やその妻である先代の奥様が檀家とお寺の間を取り持つのに
大変苦労しました、的な話だと思っていたら全く違っていたのでびっくりした。

「有力者」が人を介して将来どうするつもりなのかを聞き出そうとしていたことを
住職が知ったのはだいぶ後だったらしい。
5歳の子どもの将来なんてどうなるか誰にも分からないし、
後を継ぐことだってあり得たのに雑談の中で何気なく言った言葉で、
檀家さん達から良くない印象を持たれていたと知ったときの失望感を思うと
ため息しか出なかった・・・
そんな冷遇にもめげずに先代奥様は「自分たちがここにいる間はちゃんと務めを果たそう」と思い、それを実行されていた。
私がここに来た当初、「前の奥さんはいつもお寺とか庭とか掃除していた」という話をよく聞かされたのはそういうことだったのだ・・・

そんな中、住職が病気を患い亡くなった途端、住職は不在で息子も寺を取らない(後を継がない)のであればあなた達はここにいる意味が無いので早く出てくれと言われた、と聞いていた。
私の息子も他の職業に就いて独立しているので
お寺に入るために戻ってくることはないと思います、と言うと
「息子さんの意向を大事にしてあげてね」と言われた。

「ご住職が頑張っておられる間は支え続けてあげてね。でも、あまり無理をしないで。空いた時間に好きなことをして自分らしく過ごせるようにすると良いわね」

「仏さまはちゃんと見ていらっしゃるから。焦ったり悩んだりしなくても
絶妙なタイミングでちゃ~んと上手くいくようにして下さるのよ」

深い言葉だなぁ・・・

奥様はお寺を出た後、時々お盆やお彼岸などで来られた時
少しお話するが、いつも明るくて毎日を楽しく生きているというのが伝わってくる。夫を早くに亡くされたけど、毎日お仏壇に向かって
「お父さん、今日は○○さん(私)と高島屋で美味しいハンバーグ食べてきます」など「お話」をされているのだとか・・・

駅まで見送って頂いた時
「一度もお会いしたことはありませんでしたが、方丈(住職)様にお会いしたかったです~」と言った途端、思いがけず涙がこぼれた。

なんでお寺なんかに来たんだろう、と我が身の不幸(?)を何度も呪ったが
少なくとも先代の奥様に出会えたことは良かった・・・
とても大事なことを教えて頂いたような気がした。