身勝手
不意に、ラジオからあの曲が流れてきて思わず手を止めた。
結婚直前、ある人に出会い恋に落ちた。
ドライブの車中でよく聴いた曲だった。
数ヶ月後には結婚することを最初に伝えていたので
互いに「先のこと」は話題にしなかった。
引き留めてくれないの?と聞くと
そんなこと言うならもう会わない、と言われた。
前を向いて行きなさい、と背中を押された。
何年か後、帰省したときに再会した。
いとおしさよりも、同士のような懐かしさが溢れた。
お互いに結婚して、子どもがいて幸せな家庭を築いていた。
「シアワセ過ぎて太ったさ~」「わー、お互い別人だよね!」
「どうしてあの時引き留めてくれなかったの?」と冗談まじりのフリをして尋ねた。
「行くな、と言ったら行かなかったか?」
行くな、と言われたら・・・
行くな、と言われても結局は行っていただろう。
私のそんな迷いなんて見抜かれていたのだ。
好き、という言葉は今ではとても気恥ずかしいけれど
あの時はその一点で状況を変えられると思っていた若さ(愚かさ)を
思い出す。そして、またその愚行を繰り返してしまったことも・・・